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くず鉄の街を駆け抜ける二人から、一瞬も目が離せない

『妹兄とマンホールの蓋』ミルチョ・マンチェフスキ監督

最初のカットから最後のカットまで、一瞬も目が離せない。眠る夜更けの街を兄妹が駆け回る。マンホールの蓋から銅像まで、金になるものなら何でも盗んでいく。犯罪に手を染めながらも、二人はどこまでも純粋で、自由だ。知的な発達に少し遅れのある兄と、その兄を支えながら、自分も自由を夢見る妹マリナ。予定調和がひとつもない完璧な構成と、引き込まれる語りの巧さに、ただ身を任せていく。”これぞ映画体験だ”と、心の底から思えた作品だ。

「妹兄とマンホールの蓋(Sister Brother Manhole Cover)」の舞台は、北マケドニアの首都スコピエの周縁部。兄ヴィクトルと妹マリナは、貧しい暮らしの中で、国の英雄の銅像やマンホールの蓋を盗んではくず鉄として売り、どうにか食いつないでいる。ある日、盗んだ英雄の胸像がヴィクトルの足の上に落ち、彼は大けがを負う。治療に来た医師は、その見返りにマリナの体を求める。追い詰められた二人は、くず鉄置き場や山道、廃工場を抜けて、スコピエの社会の底をさまよいはじめる。監督はこの映画を「きょうだいの愛と、自己犠牲の映画」だと語っている。

マリナを演じるサラ・クリモスカは1994年生まれ。マンチェフスキの前々作「Willow」(2019)で主演を務め、2021年には、ヨーロッパの若手俳優を紹介するヨーロピアン・シューティング・スターズにも選ばれた。本作でも体当たりの演技で、貧しくとも、兄のためなら文字どおり”どんなことでも”するマリナになりきっている。全身からあふれる生命力の美しさに、観る者は引き込まれていく。

監督のミルチョ・マンチェフスキは1959年、スコピエ生まれ。アメリカの南イリノイ大学で映画と写真を学び、ニューヨークを拠点に、アレステッド・ディベロップメントの「Tennessee」などのミュージックビデオを手がけた。長編デビュー作「ビフォア・ザ・レイン」(1994)でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受け、アカデミー賞にもノミネートされた。その後も「DUST ダスト」(2001)などの長編を撮り、ドラマ「THE WIRE/ザ・ワイヤー」の1話も監督している。前作「カイマック」(2022)もTIFFで上映された。TIFFの紹介文によれば、本作も「カイマック」と同じく、社会からこぼれ落ちた人々の尊厳を、ユーモアと寓話を交えて描いている。製作費は100万ユーロ未満、スコピエ周辺での撮影は30日間。6か国の共同製作による、小さくも野心的な作品だ。

Art by Daisuke Nishimura

スコピエでは2010年から、政府の都市計画「スコピエ2014」によって、街じゅうに130以上の英雄の銅像や記念碑が建てられた。その費用は、調査報道によれば5億6000万ユーロにまで膨らんだとされ、”ナショナリズムのキッチュ”だと批判されてきた。けれど、この街の底で生きるマリナたちにとって、それが誰の像なのかは関係がない。ただ溶かして、金に変えるだけのものなのだ。劇中で繰り返される「主は与え、主は奪う」という旧約聖書「ヨブ記」の言葉には、さまざまな意味が込められている。けれど、二人は物語の始まりから、すでに”奪われた人たち”として登場する。

それでも、マリナが踊る姿を見れば、彼女がたくさんの才能と魅力を持って生まれてきたことが、ひと目でわかるだろう。その多くが、残酷な運命によって奪われていくのだとしても、そこで雄弁に語られる物語から、彼女が生きる時間の輝きから、目を逸らすことはできないのだ。