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守りたいものがあるとき、少年は少しだけ大人になる

『シルバー』ソヘイル・カリミ監督

まるで、現代の道徳の寓話を聞いているようだった。ササンの兄は兵士でもうすぐ士官になる。誰からも慕われ、美しい恋人もいる。それにくらべて、まだ中学生くらいのササンには、何もない。母親に頼まれた家の手伝いさえ、うまくできない。「お前の兄さんは、お前の歳にはもっといろいろできた」と、母に言われてしまう。あるのは、好きな女の子を助けたいという気持ちだけだ。けれど、ササンはある日、誰かを本気で守りたいと心に決める。その瞬間から、小さな子どもだった彼は、大人になりはじめたのだ。

「シルバー(Silver)」の舞台は、イラン北部の村。少年ササンは、同じ村のマリアムにひそかに想いを寄せている。ある日、マリアムの母親の治療費をつくるために、彼女の家族が牛を売ろうとしていることを知る。マリアムを助けたい一心で、ササンは祖母の古い銀のネックレスをこっそり持ち出し、街へ売りに行く。ところが悪徳業者に騙されてネックレスをなくし、見知らぬ土地で立ち往生してしまう。けれど、ここからが本当のドラマの始まりだ。そこで出会ったナザニンという人物とともに、ササンの新しい旅が始まる。

監督のソヘイル・カリミは1991年、イラン生まれ。これまでに短編4本と長編2本を監督し、作品は20以上の国際映画祭で上映され、数々の賞を受けてきたという。本作は東京国際映画祭のアジアの未来部門で、世界で初めて上映された。TIFFの紹介文は、キアロスタミ、パナヒ、マジディといったイラン映画の”子どもを主人公にした名作”の系譜に本作を置きながら、”21世紀の今を生きるニューバージョン”だと書いている。

たしかにこの映画には、イラン映画がこれまで描いてきた物語のエッセンスが詰まっている。友だちのノートを間違えて持ち帰った少年が、それを返すために隣の村まで走りまわる、キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」(1987)。金魚を買うためのお金をなくした少女が街をさまよう、パナヒの「白い風船」(1995)。そして、妹の靴をなくした兄が、兄妹で一足の靴を履きまわす、マジディの「運動靴と赤い金魚」(1997)など。罪を犯すことの意味とは。それが罪だとわかったときにどう行動するのか。誰かのために生きること。そして、許されるということ。国を守る兵士として、もうすぐ士官になろうとしている兄と、何も持たないまま、たったひとりの女の子を守ろうとする弟。親や社会に守られる立場の子どもにできることは、あまりにも少ない。けれど、その”守りたい”という気持ちは本物だ。そして本物である限り、それはゆっくりと、誰かに伝わっていく。

Art by Daisuke Nishimura

銀のネックレスから始まるこの現代の寓話は、シンプルな物語だ。けれど、そこに秘められたメッセージは強く、重い。観ながら、少しだけ「金の斧」の話を思い出していた。「あなたが落としたのは、金の斧ですか? 銀の斧ですか?」。ササンがなくした銀のネックレスは、いったいどんな素晴らしいものに変わったのだろうか。それは、この映画を観た人だけが知っている。