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若きポン・ジュノが描いた”支離滅裂”な物語に、ニヤリ

「支離滅裂(Incoherence)」ポン・ジュノ監督

アカデミー賞で、”英語ではない作品”として初めて作品賞を受けた「パラサイト 半地下の家族」。漢江にひそむ正体不明の巨大な生きものを描いた「グエムル-漢江の怪物-」。現代社会にひそむ”何か”を、独自の筆致で描きつづける監督、ポン・ジュノ。その彼が、韓国映画アカデミーの卒業制作としてつくったのが、1994年の短編「支離滅裂(Incoherence)」だ。

この作品、学生時代につくったとは思えないほど、見事な構成力をもっている。卒業制作でありながら、香港国際映画祭やバンクーバー国際映画祭にも招待されたというのも、うなずける。一見すると三つの話を集めたオムニバスだが、全体でひとつの物語になっていて、「なるほど」と唸る、完璧なオチが待っている。それぞれのエピソードは、まるで東京03の傑作コントのように、ニヤリとさせる。卑猥な妄想で頭がいっぱいの大学教授。朝のジョギング中に、よその家の牛乳を盗み飲みする偉そうなおじさん。そして、酒に酔ったまま、とんでもない場所で用を足してしまう、別の偉そうなおじさん。実際にありそうな場面をうまくつくりながら、なんとも器の小さい人間の滑稽さが描かれている。そして、三人のおじさんが、実にいい役者なのだ。いや〜な加齢臭が、画面からも漂ってくるようだ。

Art by Daisuke Nishimura

「ゴキブリ」「路地の外へ」「苦痛の夜」という”支離滅裂”な三つのエピソードのあと、オチとなる「エピローグ」に突入する。まず、タイトルバックの上に、「カルシウムがあっておいしいわ」という声だけが響く。どうやら、何かを食べているようだ。それが、3話目の最後の下品な場面から浮かぶイメージとつながってしまい、少し気分が悪くなる(これが意図されたものなのかは、わからない)。エンディングの場面が映ると、そこは暗い部屋で、テレビだけがついている。テレビの前には、死んだように眠る人影がひとつ。テレビではニュースの特番が流れていて、社会に怒りをもった個人が起こした暴力的な犯罪について、三人のゲストと議論すると、キャスターが話している。ん? この三人、見たことがあるような……。テレビの前で寝ている男も、どこかで見たことがあるぞ……。

これ以上はネタバレになってしまうので説明しないが、崩れかけた現代社会のモラルに、ユーモアたっぷりのまなざしを投げかけた30分の「支離滅裂」には、ポン・ジュノの輝く才能が、すでにちりばめられている。25年後、「パラサイト」は、アカデミー賞の前に、カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてのパルムドールも受けることになる。みなさん、おかしな動きをしているおじさんを見かけたら、これからは気をつけて観察したほうがいいですよ。思っている以上に、この世界は”支離滅裂”ですから……。