若きポン・ジュノが描いた”支離滅裂”な物語に、ニヤリ

January 31st, 2025 / / / /

アカデミー賞で”英語ではない作品”として初めて作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』や漢江に潜む正体不明の巨大な生き物を描いた『グエムル-漢江の怪物-』など、現代社会に潜む”何か”を独自の筆致で描き続ける監督ポン・ジュノ。その彼が韓国映画アカデミーの卒業制作として作成したのが1994年の短編『支離滅裂(Incoherence)』である。

この作品、学生時代に作ったとは思えない見事な構成力である。一見すると三つのオムニバスだが全体として一つの物語になっており、「なるほど」と唸る完璧なオチが待っている。各エピソードはまるで東京03の傑作コントのようにニヤリとさせる。卑猥な妄想で頭がいっぱいの大学教授、朝のジョギングで人の家の牛乳を盗み飲みする偉そうなおじさん、そして酒に酔ったままとんでもない場所で排便してしまう別の偉そうなおじさん。実際にありそうな場面をうまく作りながら、なんとも器の小さい人間の滑稽さが描かれている。そして三人のおじさんが実にいい役者である。いや〜な加齢臭が画面からも漂ってくるようだ。

「ゴキブリ」「路地の先に」「夜の苦痛」という”支離滅裂”な三つのエピソードの後、オチとなる「エピローグ」へと突入。まずタイトルバックの上に「カルシウムがあっておいしいわ」という音声だけが響く。どうやら何かを食べているようだ。それが3話目の最後の下品なシーンから浮かぶイマジネーションと繋がってしまい、少し気分が悪くなる(これは意図したものなのかはわからない)。エンディングの場面が映ると、そこは暗い部屋でテレビだけがついている部屋。テレビの前には死んだように眠る人影がひとり。テレビではニュース特番が流れ、社会に怒りを持った個人が起こした暴力的な犯罪について三人のゲストと共に議論すると、キャスターが話している。ん?この三人見たことがあるような…。テレビの前で寝ている男もどこかで見たことがあるぞ…。

これ以上はネタバレになってしまうので説明はしないが、とにかく現代社会の崩壊しかけたモラルにユーモアたっぷりの視線を投げかけた30分の本作『支離滅裂(Incoherence)』には、監督ポン・ジュノの輝く才能がすでに散りばめられている。みなさん、おかしな動きをしているおっさんを見かけたら、これからは気をつけて観察したほうがいいですよ。思っている以上にこの世界は”支離滅裂”ですから…。