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パリに包まれたアルジェリア、それが深く儚い場所だとしても。

「DAMMI」ヤン・ドマンジュ監督

ロカルノ国際映画祭の名物になっている”ピアッツァ・グランデ”は、その名のとおり”大広場”だ。星空の下で、最高の音響と映像に酔いしれることができる、8000席の巨大な野外シアターである。2023年のロカルノで世界初上映された、ヤン・ドマンジュの短編「DAMMI」が、もしこの広場で上映されていたらと考えると、なかなか興奮する。深い色で語る映像、心の琴線をじかに震わせるような立体音響……。それらが、アイデンティティを求めてさまよう男の物語に呼応し、星空の大広場に、シュールレアリスムの世界を見せてくれたはずだ。

物語は、俳優でありラッパーでもあるリズ・アーメッドが演じる主人公が、パリの街を歩く場面から始まる。彼が演じる主人公は、父がアルジェリア出身で、パリとロンドンで育ったという設定だ。「父は68年にアルジェリアからパリに移り住み、ガソリンスタンドの横でバーを営んでいた」。ラッパーらしい力強いモノローグが続く。「けれど父は、アラビア語を教えてくれなかった。フランス語の読み書きも、教えてくれなかった」。だから、パリに来るたびに、自分は”アウトサイダー”なのだと感じる。それはまるで、”水に浮かんでいるよう”なのだという。そして映像は、青く美しい水の底で、ふわふわともがく姿へと移っていく。現実と非現実の移りかわりが、実に美しい。アレクサンドル・マテュッシが手がけるブランドAMIを身にまとい、水の深くへ沈んでいくリズは、悲しくも、スタイリッシュだ。じつはこの短編そのものが、AMIの製作による作品なのだ。

人物の設定が細かく、リアルなのは、これが監督ヤン・ドマンジュ自身の物語だからだろう。「ベルファスト71」などで知られる彼は、フランス人の母とアルジェリア人の父のもと、パリで生まれた。もともとはアラビア語の”ムニール”という名前だったが、両親が離婚したあと、差別されないようにと”ヤン”に改名したという。「フランス国籍だが、国民としてのアイデンティティはひとつもない」と、彼は言う。その後、父の故郷アルジェリアを訪れたとき、叔母が映画「アルジェの戦い」にエキストラとして出ていたことを知り、映画への愛がいっそう深まったというのだから、人生、何があるかわからない。国籍というアイデンティティを求めてアルジェリアへ向かった彼は、そこで”映画”という、別のアイデンティティを見つけたのだ。キャバレーの歌い手として、アルジェリア人の父をもつ名優イザベル・アジャーニが出演しているのも、偶然ではないのだろう。

歴史的に移民の多いフランスで、移民の出身国としていちばん多いのがアルジェリアだ。その数は、約100万人にのぼる。戦火が絶えない今の時代、移民の問題は、決して他人事ではない。国境とは、はかなく脆いものであり、その線引きだけに自分の拠りどころを求めることはできない。そんな移民たちが抱える、”アイデンティティを求める”心の姿を、この映画は、アーティスティックな表現で、感覚的に教えてくれる。

映画の最後に、彼の心は叫ぶ。「過去とは違う結末は、決して見つからないかもしれない。だったら私は、何かほかのものにすがりたい。今ここにいたいんだ。あなたと一緒に」。それは、ひとりでアイデンティティを求めつづける答えのない旅が、”ふたりの旅”へと変わった瞬間なのかもしれない。

Art by Daisuke Nishimura