ネクストジェネレーションの”リアル”が詰まった、瑞々しいロードムービー

February 19th, 2025 / / /

ビル・ロス4世とターナー・ロスという才気あふれる兄弟監督が作り上げたフレッシュなロードムービー『GASOLINE RAINBOW』は、とにかく眩しい。これでもかとキラキラ輝く。こんな青春を送れた幸運な人も(ほとんどいないだろうが)、送れなかった人も、ここに描かれた甘く切ない時間の輝きに、誰もが心が苦しくなるはずだ。ビル兄弟はアメリカオハイオ州シドニーの小さな街で起きた出来事を俯瞰的に描いてSXSWで審査員賞を受賞した『45365』で鮮烈なデビューを果たした新鋭コンビ。どこにでもあるような青春ストーリーでありながら、”ここにしかない”一瞬を、『GASOLINE RAINBOW』の中に描き上げている。

主人公は5名のティーンネイジャー。父親が強制送還された移民出身の子や、親がアル中だったりと、それぞれが「これぞアメリカ」な問題を抱えている。彼らは、高校生最後の夏休みにホームタウンであるオレゴンの街から一台のオンボロバンに乗って旅に出る。友達に借りたか盗んだかはっきりと覚えていないが、その車はテールライトは切れ、決して快適ではない。それでも恋愛トークやら、流行りの歌を合唱しながら「最高の仲間」たちは、ゆっくりと「海」へ向かってゆく。そう、彼らはこれまで行ったことのない500マイル離れた太平洋へと、ただ行ってみようという冒険に出たのだ。「計画なんて糞食らえ。FUCKだ!」という通り、計画なんてなにもない。

今から振り返ると自分もそうだったが、若い頃は恐ろしいほどに人を信じすぎる。「この人には絶対に話しかけない方が…」と思うような人にも、彼らはどんどんと話しかけてゆく。車で通りかかった街では少しラリった女子と出会い一緒に車に乗せては絶景スポットまでドライブして大騒ぎ。また別の街では夜道を歩く刺青だらけのおっさんに話しかけては怪しいパーティに連れて行かれる。また別の街ではスケボーがめちゃくちゃ上手いアフロアメリカンの眼鏡男子に話しかけ、意気投合し一緒にスケートパークやらパーティで大騒ぎする。ネタバレにはならないと思うのだが、ある場面で彼らは車を盗まれてしまう。裏切られて途方に暮れて、落ち込みながら果てしない道のりを歩き始めるが、決して喧嘩をしたり泣いたりはしない。むしろ違う冒険が始まったのを楽しんでいるように、ワクワクしているように見える。それは冒険第二章であり第三章だ。ティーンネイジャーたちがみている世界はくたびれた大人が見ているものとは全く違うのだ。世界全ては可能性と未知の冒険に満たされている。星が輝いたり海が見えると「すごく綺麗!」と目を輝かせ、ダンスが上手い人がいると「かっこいいね!」と素直に褒めて親友になる。この空気、この時間、ネクストジェネレーションたちがまさに呼吸し、心をときめかせている時間が、見事に描き出されている。ロス兄弟が作りたかったのは「究極に自由な映画」なのだ。人生の束の間のモラトリアムを生きる、何者にも縛られない自由なティーンネイジャーたちを、自由な感覚で描いてゆく。この時間は2度と戻ってこないからこそ、眩しく輝いているのだ。

パーティは終わり、夜が明けた浜辺、燃やされたピアノの横で、静かに座る5人。早朝の海に波が静かに寄せては返す。夢の時間は終わり、現実がゆっくりと溶け込んでくる。「この旅が終わってほしくない」と一瞬泣きそうになる彼らだが、甘く切ないエンディングはない。そんな気持ちさえ「FUCKだ!」と笑い飛ばすのがこの映画。あとは見てのお楽しみだが、とにかく清々しく美しい時間がここにはある。本当に終わってほしくないと思っているのは、彼らではなく、映画を見ている僕らなのかもしれない。

Art by Daisuke Nishimura