15世紀ヨーロッパを舞台に、禁じられた地動説を命がけで研究し時代を繋いできた人達を描いたフィクション漫画『チ。-地球の運動について-』(ビッグコミックスピリッツで連載、作者は魚豊)が新鮮な驚きをシーンに巻き起こしたのは少し前のこと。その後アニメ化され、サカナクションによる未完の主題歌も話題となりながら、「何度でも〜」とサカナクション山口氏の歌声に彩られつつ綴られた『チ。-地球の運動について-』もとうとうクライマックスへと突入している(具体的には第6集デュラカの活版印刷あたりなので、後一巻というところか)。
作者の魚豊さんが「史実ではどうやら、地動説ってそこまで迫害を受けてはいなかったらしい」と語っているように、必ずしも地動説を支持した人の全員が処刑されたわけではない。ただ、それがタブーであった時代が長かったのは事実であるし、キリスト教や仏教など独特な「世界観」をもとにさまざまな教えを展開してきた宗教にとっては、方向転換することは当然簡単な話ではない。
そんなアニメ『チ。』を家族で楽しく見ていた時、ピュアな息子から「地動説はいつ認められたの?」という、15世紀ならその場で家族全員殺されそうな質問が飛び出した。「確かに、キリスト教会はいつ地動説を認めたのだろう?」と疑問が湧いたのですぐに検索。そして驚くべき答えが…。
とある2008年のニュースに「ローマ法王、地動説初めて認める/ベネディクト16世」と書かれていた。ん?2008年?AIやら重力レンズやら量子コンピューターやら科学全盛の時代のど真ん中じゃん。ウィキペディアを調べてみると、「ローマ教皇庁ならびにカトリックが正式に天動説を放棄し、地動説を承認したのは、1992年の事」と書いてある。ただし「ガリレオの異端といったのは取り消すね」程度のことだったらしい。それでも、ガリレオの死から359年が経過していたし、1992年といえば毛利さんがスペースシャトルで宇宙へ飛び立った年。もしや毛利さんは「地球どうなってるか、見てきてもらえます?」とキリスト教会に頼まれたのだろうか…。いやそんなわけはない。どう考えても、心の整理に359年どうしても必要だったのだろう。
神様を信じる気持ちは尊いものだし、連綿と繋いできたできた「科学」という揺るがないものも、いうまでもなく尊い。最近全巻読破した圧倒的SF叙事詩『三体』に出てくる「三つの太陽が回る周期が複雑すぎて、それを解こうと努力し続けた結果その星の知性はめちゃくちゃ進化した」という設定にすごく感動した自分としては、滅亡と淘汰を繰り返しながら生き延びようともがいてきた三体人と比べると、まあ、平和ですな。